第75話

俺が今までに聞いたこともないような梨乃ちゃんの低い声に、



――というか、梨乃ちゃんの発した単語に、俺は驚きすぎて黙ってしまった。



“キスフレ”って……何の話だ!?



セフレだと誤解されているだろうことは予想してたけど、キスフレなんて俺には一人もいないのに。



「ちょっと待って。俺、ゆづにはちゃんと俺の気持ちを伝えて――」



『ベッドの上でしか言わない“好き”なんて信用出来るわけないでしょ!』



「……」



梨乃ちゃんは多分、俺がゆづに何をしたのか、全部知っている。



その上できっと2人とも誤解をしている。



でも、元はと言えば俺の配慮が足りなかったのが悪い。



それは分かってるけど、ゆづに俺の気持ちを誤解されたままなのは絶対に嫌だ。



「梨乃ちゃん。ゆづに会わせて」



『……結月の気持ちを利用する気でしょ』



完全に俺への信用をなくしている梨乃ちゃんには、何を言ってもダメなのかもしれない。



「梨乃ちゃんはどういうつもりで、ゆづが合コンに行くとかマッチングアプリ始めたとか、わざわざ俺に報告してきたの?」



梨乃ちゃんのしていたことは、拒絶したい相手に対してする行動だとは思えない。



『……直人さんは本当は結月のことが好きなんだと思ってたから』



じゃあやっぱり、挑発的な目つきで報告してきたのは、俺をけしかけるためだったのか。

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