第74話
「まぁまぁ! 立ち話もなんだし、とりあえず席に――」
「要らないわよ、案内なんて! 文句言いに来ただけだからすぐに帰るわよ!」
いつもなら武村にもちゃんと敬語を使う子なのに、怒っているからか口調がきつい。
「このクズ!」
俺に向かってそう吐き捨てた梨乃ちゃんは、足音も荒く店を出て行って……
「おーい、クズ宮」
すぐに聞こえてきたシェフの声に、
「……間宮です」
俺は力なく訂正した。
「お前、今日は早番だったな? 残業はいいから、もう帰っていいぞー」
シェフに言われて時計を見ると、確かに定時の時刻を過ぎていた。
シェフと武村にやりかけの仕事の引き継ぎをして、そのまま退勤した。
当然、真っ直ぐ帰宅なんてするわけもなく――
「ゆづ……開けて」
俺は、ゆづが一人暮らしをしている部屋の前まで来ていた。
インターホンを鳴らしても反応はなく、仕方がないので無視されるのを覚悟でゆづのスマホへと電話をかける。
長いコール音の後、
『結月なら寝てるから邪魔しないでよ』
「……」
いつの間に到着していたのか、梨乃ちゃんの声がした。
「俺にゆづの看病させてくれない?」
断られるだろうとは思うけど、そう訊ねた。
『結月のことを、キスフレだとかセフレだとかにするような人に任せられるわけないじゃない』
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