第73話

「ちゃんと言わずに迫ったのなら結月ちゃん、もしかすると先輩にセフレにされたとしか思ってないのかも」



武村はそう言うと、俺の返事も待たずにピザを持って客の待つホールへと出ていってしまった。



俺はその武村の背中を見ながら、



「……」



ゆづに対して言葉が足りていなかったことを激しく後悔した。



無言のまま項垂れる俺に、



「おい、あれ」



シェフが店の入口の方を顎でしゃくった。



「?」



誰か客が入ったようで、今、店内を案内出来る従業員は俺しかおらず慌てて出迎えると、



「直人さん! あなた、結月に何したの!?」



俺の姿を見つけるや否や、梨乃ちゃんが俺の胸ぐらを勢いよく掴んできた。



「えっ!?」



何もしてない、とは言えなくて戸惑う俺を、



「結月、学校で熱出して倒れたからさっき病院に付き添って行ったら、精神的なものだって言われて……そんなの、直人さんしかいないじゃない!」



梨乃ちゃんは鋭く睨みつける。



「ゆづは今どこに!?」



梨乃ちゃんに胸ぐらを掴まれているせいで息苦しくなってきたのも気にせずに、そう訊ねると、



「今は結月の部屋で寝てる……でも、直人さんは結月に近付かないで!」



梨乃ちゃんが俺の胸ぐらを更に強く握り締めた。



「……っ!」



流石に苦しくて顔をしかめる俺に気が付いた武村が、慌ててこちらに走ってくる。

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