第72話

嘘でも何でもなく、本当に“女友達”とはもう随分と長い間会っていない。



ゆづがこの店に泣きながら逃げ込んできて、俺が初めてゆづを部屋に泊めたあの日以来、ずっとだ。



あの日、セフレ歴の一番長い桃子との約束をキャンセルしてからは、なんとなくそんな気になれなくて全員の約束や誘い全てを断っている。



中には既に離れていった女も何人かいるけど、そんなことは正直どうでも良くて。



今でも桃子を含む複数の女から連絡が来ていて、むしろそっちを鬱陶うっとうしいと感じる程。



俺が欲しいのは桃子たちではなく、ゆづからの連絡だけなのに。



肝心のゆづは、半月近く俺に何の連絡も寄越さないままマッチングアプリなんかを始めて――



やっと一つになれたと思ったのに、ゆづはまたこうして俺と距離を置こうとしている。



俺のことをあれだけ好きだのセフレになりたいだのと言っておいて、いざ俺がその気になると簡単に逃げてしまう。



俺に対する気持ちはその程度だったのかと――自覚する度に、俺の胸はかつてない程に鈍い痛みを伴う。



「それ、ちゃんと結月ちゃんに話しました?」



盛り付けの完成したピザを俺から受け取りながら、武村が怪訝けげんそうな顔をした。



「それって?」



「先輩が結月ちゃんのことを好きで、セフレともちゃんと切ったってこと」



会ってないというだけで、ちゃんと切れてはいないことに今更気が付いた俺は、



「……」



黙ってしまった。

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