第70話

「はぁぁぁぁー」



本日何度目か分からない深く長い溜息をつく。



俺がゆづに送ったメッセージに既読がつかないまま、1日が経過してしまっていた。



こんなこと、今まで一度もなかったのに。



ゆづに無視を決め込まれる心当たりなんて、一つしかない。



そんなに、俺に抱かれたのが嫌だったのだろうか。



「はぁぁぁぁー」



窯の前でピザの焼け具合を確認しながら溜息をついていると、



「……先輩。その不機嫌そうな溜息、そろそろやめてくれませんか」



食洗機の前で洗い上がった器具類を片付けていた武村が白い目をこちらに向けてきた。



「俺に対して怒ってんのかなってすげー怖いです」



「怖いと思ってる先輩に向ける目つきじゃねぇだろ、お前のそれは」



俺は思わずムッとした。



「間宮のそれは結月ちゃんが原因か?」



カルパッチョを作るために魚をさばいていたシェフまでが口を出してきて、



「……」



俺は思わず黙ってしまった。



「図星か」



「……ゆづの気持ちが分からなくて」



無意識のうちに零れた本音に、



「先輩が女の子の気持ちを知りたいと思うなんて」



驚いた武村は大袈裟に体を仰け反らせてみせた。

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