第69話

ゆづを抱き締めたまま、幸せな気持ちで眠った日の翌朝。



スマホのアラームで目覚めた俺は、



「……ゆづ!?」



腕の中にいたはずのゆづがいなくなっていることに気が付いて、慌てて飛び起きた。



ベッドのシーツに残されていたのは、微かなゆづの甘い香りと――ゆづが初めてを失った証である赤い印。



寝室を出て隣のリビングを見渡すと、テーブルの上のゆづのバッグと、お菓子の紙袋がなくなっていた。



代わりに一枚のメモ用紙が置かれていて、



『玄関の鍵はかけてポストに入れておきます。』



とだけ書かれていた。



玄関を見ると確かに鍵がかけられて、扉に備え付けのポストの中には鍵が入っていた。



「ゆづ……」



昨夜のゆづの様子を思い出す。



俺の腕の中で熱い吐息を零すゆづは……嫌がっているようには見えなかったけど。



でも……俺の“好きだ”という言葉には、何の反応も示してくれなかった。



もしかすると俺が気持ちを伝えるのが遅すぎて、ゆづの中では俺への気持ちなんて、もうとっくに消えてなくなっていたのかもしれない。



俺は慌てて寝室に戻ってスマホを手に取ると、



『ゆづ。今日も少しだけでも会えない?』



とメッセージを送った。



けれど、どんなに待ってみても既読のマークがつくことは、この日はなかった。

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