後悔先に立たず(直人side)

第66話

ゆづが俺に会いに来なくなってから半月程が経過した頃。



職場のディナーの時間帯に、1人の若い女性客がやって来た。



ゆづの友達の梨乃ちゃんだ。



「いらっしゃい。1人?」



カウンター席の一番隅の席を陣取った彼女にお冷とおしぼりを運んだ俺は、店の扉の方をちらりと見た。



もしかすると、後でゆづも来るのかなと思ったから。



「結月なら、今日もここには来ないですよ」



俺の視線に気付いたのか、梨乃ちゃんはそんなことを告げて、テーブルの上のスマホを指差した。



無言の“見ろ”という圧力を感じて、俺は指を差されたそれを恐る恐る覗き込む。



画面には、今流行りのマッチングアプリが起動した状態で表示されていた。



「数日前から、結月もこれ登録してるんだけど」



梨乃ちゃんは何でもないことのようにさらりと告げたが、



「……!?」



俺はというと、ショックで言葉をなくした。



俺に会いにも来ず連絡すらも寄越さないと思っていたら、マッチングアプリなんかしていたのか。



「登録したばっかりで、ヤリモクのヤツからしかメッセージが来てないから、まだ誰ともやり取りはしてないみたいですけど」



そう告げた梨乃ちゃんは、かなり挑発的な眼差しで俺を見上げた。



「結月って可愛いから、彼氏が出来るのも時間の問題じゃないですかね?」



「……」



俺は何も気にしていないフリをしながら、彼女のスマホから顔を上げて――そのアプリの名前だけは、しっかりと記憶に刻んでおいた。

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