第65話

「……ゆづ、俺のセフレになりたがってたよな?」



「……」



前は、本気でそう思ってたけど。



でも、やっぱり大好きなナオくんとは――



ちゃんと両想いになってから、なりたい。



ナオくんに、好きだって思われたい。



「ゆづをセフレにする気は今も全くないけど、ゆづのことは抱きたい」



「……!?」



それはどういう意味なのか、私にはさっぱり分からなくて、黙ってナオくんの顔を凝視することしか出来ない。



「ゆづ……好きだよ」



「あ……」



ずっとナオくんの口から聞きたいと思っていた言葉。



やっと願いが叶って嬉しいはずなのに、



「……」



私も好きだよ、の一言が全く出てこなかった。



だって――



ベッドの上でしか囁かれない愛の言葉なんて、女を抱きたいがためだけの言葉で、その場しのぎでしかないって……



本心による言葉ではないって、どこかで聞いたことがあったから。



「ゆづ……」



以前にも聞いた、私を求める切ない声と、



「好きだよ、ゆづ……」



初めて見る、ナオくんの熱のこもった眼差しに、



「……っ」



胸を酷く締め付けられた私は、苦しくて全く抵抗出来なかった。



そうして私は――



いつかナオくんに捧げたいと思っていたはずのたった一度きりの“初めて”を、この日、ナオくんに奪われてしまった。

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