第62話
そこには、
「……ナオくん……」
私の一番大好きだった、でも今一番会いたくなかった彼が立っていた。
「ゆづ」
再度私の名前を呼んだナオくんは、驚いたまま立ちすくむ私の手首を掴んで、その場から連れ出そうと無理矢理に手を引く。
「やっ……待って! 私、これから人と会う約束を……!」
慌てて抵抗するも、物凄く強い力に引っ張られてずるずると引きずられる。
「……ゆづの待ち人なら、絶対にここには来ないよ」
ぼそりと呟くように言ったナオくんは、一旦足を止めると私を振り返って冷たい眼差しで見下ろした。
ズボンのポケットから取り出したスマホの画面を見せて、
「波間 乙矢なんてヤツ、実在してないから」
そこに表示されていたのは、私と乙矢さんが毎日やり取りをしていたアプリのトーク画面で――
そのアプリに登録している本人にしか開けないはずの画面だった。
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