第61話

一度でも会いたいと思ってしまうと、アプリを始める前まで怖いと悩んでいたことが嘘のように、乙矢さんと会う日はすんなりと決まった。



乙矢さんは社会人なので、乙矢さんの仕事が休みの日に、私の学校が終わってから会うことに。



この日のバイトは前もって休み希望を出しておいたから、私の予定も大丈夫。



前に乙矢さんとのやり取りで、その日の授業でアイシングを習ったことを伝えた時、



『そういえば、アイシングケーキって食べたことないかも』



と言っていたので、アイシングケーキの中でも私が一番美味しいと思っているレモンケーキを、約束の日の前の夜に作っておいた。



可愛くラッピングをして学校のロッカーに入れておき、授業が終わったらそれを持って待ち合わせ場所に向かう。



いつもより少しだけ服装にもメイクにも気合いを入れて登校した私に、勘のいい梨乃ちゃんは、



「結月、ファイト!」



と言ってくれたけど。



乙矢さんは、こんな私を見てどう思うかな……?



ドキドキそわそわしながら、待ち合わせ場所として指定されていた駅の入口階段の下で待っていると、



「ゆづ」



聞き慣れた、でもとても懐かしく感じる声に呼ばれて――



私は条件反射的に、声のした方を振り向いてしまった。

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