第58話

あれから数日が経ち、



「……何か気が乗らないんだよねぇ」



例のマッチングアプリには、いろんな男性からのメッセージが届いていた。



元々、梨乃ちゃんに無理矢理勧められて始めたアプリ。



そこに、



『俺のカラダにもクリーム塗って下さい』



とか



『パティシエさんの制服でプレイして欲しいな』



とかそんな下品なメッセージをもらったところで、会ってみたい人なんて一人も――



いない、と思った瞬間、



「……ん?」



新着メッセージ一覧をスクロールする指がぴたりと止まった。



乙矢おとや”と名乗るその人からのメッセージには、



『パティシエさん目指されてるんですね。僕も一流の料理人を目指してレストランで修行中です。お菓子作りは苦手なんですけど、凄く興味はあります。是非、お話を聞かせてもらえると嬉しいです』



そんなことが書かれていて。



その人のプロフィールを確認すると、顔写真はなくて美味しそうなパスタの写真が使われていた。



年齢も、私より3歳年上で。



……なんとなく、ナオくんと被って見えてしまった。



何もしなくても女の子にモテまくっているナオくんが、こんなものを利用するわけなんてないのに。



「……やり取りだけでもしてみようかな」



ぽつりと呟いた独り言は、



「マッチングアプリの話?」



学校の食堂で、私の隣の席に座って牛丼をかき込んでいた梨乃ちゃんにばっちり聞かれていた。

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