第44話

恐る恐るゆづの顔を見ると、



「……」



「……」



しっかりと、ゆづと目が合った。



「あっ、ごめん。起こし――」



「行かないで」



俺の服を掴んだまま、涙目で俺を見上げるゆづに、



「……っ」



心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを覚える。



「お願い、ナオくん」



「ゆづ……まだ酔ってるだけだよな?」



それとも、単に寝惚けているだけなのか。



どちらにしても、



「ナオくん……」



俺を呼ぶ時のゆづの声と表情が色気に溢れていて、



「……」



少しでも気を抜けば、自制が利かなくなりそうだ。



「……おっきいクマに追いかけられてる夢見たの」



「は……?」



切実な表情でそんなことを言うもんだから、聞き間違いかと思った俺は、そんな間抜けな声を出した。



けれど、



「怖かった……」



ゆづ本人は真剣で、それが逆に笑えてくる。



――可愛いとさえ、思ってしまった。



きっとこの“可愛い”は妹や小さい子供に対して持つ感情だと思う。



それなら、そんなに自分で自分を警戒する必要はないはずだ。

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