第26話

「ごめんね。気にしなくていいから」



そんな声をかけられて、思わず彼の顔を見ると、彼はにこっと人懐っこそうな笑顔を浮かべる。



(あ……うちのに似てる)



彼の顔を見ていると、実家で飼っている柴犬の“ちくわ”の顔が自然と浮かんだ。



親近感が湧いてしまったせいか、皆で席替えをした時、彼はごく自然に私の隣に座ってきた。



お好み焼き屋さんに来ていたので、最初は皆でわいわいしながらお好み焼きを焼いていたんだけれど、



「ねぇ。この近くにオススメのお洒落なお店があるんだけど、今から2人でちょっと行ってみない?」



“ちくわ”似の彼――相馬そうま君が、私の耳元でこっそりと囁いた。



「えっ……」



初めてのことで戸惑う私に、



「……」



私の斜め向かいの席に座っていた梨乃ちゃんが黙ったままウィンクしてきた。



……彼の提案に乗れと?



本当はあまり乗り気ではなかったけれど、梨乃ちゃんが行っとけと言うなら仕方ない。



「……うん。いいよ」



私は相馬君に当たり障りのなさそうな笑顔を浮かべて頷いた。

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