第3話

“ビッチって聞いてるから相手して”



だなんて、そういう声はよくかけられるし、慣れているつもりだった。



でも、こんなストーカーみたいなことをされるのは初めてで、とにかく怖い。



いつでも110番出来るようにスマホに番号を入力して、左手に握り締めたまま歩き続ける。



「ねぇ、待ってってば!」



男はまだついてくる。



「……っ」



恐怖で足がもつれそうになるのを必死で堪えて、ついに走り出した。



「ちょっと!」



ちっとも遠くならない男の声に、涙が出そうになる。



どのくらい走ったのかは分からないが、ふと見慣れた店の看板が見えてきて――



私は、思わずその店のお洒落な木の扉を両手で突き押すようにして、店内に飛び込んだ。



カランカランッと澄んだベルの音が鳴り響き、



「いらっしゃいま――えっ? ゆづ!?」



先客におしぼりと水を運ぼうとしていた店員・間宮まみや 直人なおとが、私を見て驚いたように目を見開いた。



私を“ゆづ”と呼ぶこの彼こそが――私が片想いし続けている初恋の相手である。

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