第91話

友季は別に、舞の口から他の男の話など聞きたくはないのに。



しかも、舞の初恋だなんて――過去のことだと分かってはいるが、想像しただけでも嫉妬で狂ってしまいそうになる。



けれど、舞の前で散々他の女の話をしてしまった友季に、それを拒否出来る権利はない。



それは、十分に分かっているのに――



「……ごめん、舞。聞きたくない」



舞をぎゅっと抱き締めて、懇願するような声を出していた。



「今、そんな話聞かされたら……絶対に嫉妬して、舞のこと無理矢理襲うと思うから」



「トモくん……」



困惑したような舞の声に、友季の胸がズキッと痛む。



最低だと思われたとしても、やっぱりどうしても聞きたくなくて。



「バンソーコーのお兄ちゃんなんだけど。その相手って」



舞の声が聞こえた瞬間に、友季は自分の耳を手で塞ごうとして――



「えっ……?」



慌てて舞の顔を見た。



「初めて会った時のトモくんだよ。太ってて、暗い顔してて……でも凄く優しくて。笑うと目が凄く細くなって、どこに付いてるのか分からなくなるような……」



褒めているのか悪口を言っているのかよく分からない舞のその言葉を、



「……」



友季はぽかんとした表情で聞いていた。



「そんなバンソーコーのお兄ちゃんが、私の初恋の人」



「……」



「あっ、美味しいクッキーをくれたからじゃないよ。あれは確かに凄く美味しかったけど、そうじゃなくて……誰よりも優しいトモくんに惹かれたんだよ」

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