第89話

「うわー。怖ぇ女」



前田は楽しそうに笑い、



「アンタが、いくら学年一可愛い私でも、食欲にしか興味なさそうなデブを落とすのは無理だろとか言ったからでしょ」



雅はムッとした。



「私に落とせない男はいないってこと、分かった?」



「はいはい。よーく分かりました」



前田が、雅の腰をぐいっと引き寄せる。



「次は誰行ってみようかな」



雅は、前田の胸に頭を預けた。



「特進クラスのヤツは?」



「1組にいる、あのガリ勉眼鏡にしてみよっか」



「いいけど、マジで俺以外にキスとかさせるなよ」



そう言って、前田は雅の顔を覗き込む。



「大丈夫。アイツらの童貞をもらうボランティア活動をする気なんて、1ミリもないから」



雅は可愛い顔で微笑むと、他の生徒が見ているのも気にせずに前田とキスを交わした。



そんな恐ろしいやり取りを聞かされては――





「女ってすげー怖い生き物なんだなって思うと、怖くて近付いて欲しくなかった」



腕の中の舞の髪を優しく撫でながら、友季は苦笑した。



舞は、胸にティッシュを箱ごと抱えて、涙と鼻水をひたすら拭いていた。



「あんなオンナに引っかからなきゃ、イジメに遭うこともなかったのかなとか色々考えたけど……」



「……」



「それまで仲良くしてたクラスの友達も全員が、イジメられてる俺を見て笑ってたから……アイツらの本性を早い段階で知れて、良かったとは思ってる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る