第88話

「気持ちは嬉しいけど、その時の舞ってまだ小学校にも入学してないよな?」



「……うん。幼稚園の年長さん」



黒い学ランを着た高校生の自分が、幼稚園の薄いブルーのスモッグを着て黄色の帽子と幼稚園バッグを提げている舞に守られる図を想像して、



「……ぶっ」



友季は思わず噴き出した。



「えっ! なんで笑うの!?」



慌てる舞に、



「いや……何でもない」



友季は必死に笑いをこらえ、真顔に戻す。



年齢差を感じる図を想像したからだろうか。



今、自分がベッドの中で舞に腕枕をしているというこの状況が、何だか夢か幻のように思えた。



腕の中の舞を再びぎゅっと抱き締めて、



「……続き、話していい?」



「うん」



そのまま、さっきの続きを話すことにした。



――時は戻り、友季がイジメに遭うのが日常的な光景になりつつあった頃。



休み時間の廊下で、前田と雅がイチャイチャしながら話をしているところを、友季は偶然見かけてしまった。



向こうは友季の存在に気付いておらず、友季は慌てて廊下の曲がり角の影に身を隠した。



2人から少し距離はあるものの、よく通る雅の声は、友季の耳にもしっかりと届いた。



「この私が、あんなデブ好きになるわけないじゃない」



「でもお前、アイツと仲良くしてたんじゃねーのか?」



「そんなの、最初から落とすつもりだったからに決まってるじゃないの」



――“最初から”。



仲良くなったと思っていたのは、友季だけだった。

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