第83話

「初めて会った時くらいに太ってよ、トモくん」



それなら、きっと誰も彼に言い寄ったりしないのに。



つい、そんな嫌な考えを抱いてしまう。



「……舞が、その方が好みだって言うなら、頑張って太るけど」



友季は複雑そうな顔をしながら、それでも優しく微笑んで舞の髪をそっと撫でる。



「別にそういうわけじゃないなら、今の俺のことも受け入れて欲しいかな」



「……それはやっぱり、モテたいから?」



疑いたくなくてもつい、そんな風に疑ってしまう。



睨むような舞の目を見て、友季は困ったような表情を浮かべる。



「舞に好かれたいとは思ってるけど、他の女からモテたくはないよ」



友季は頭をポリポリと掻いてから、



「……物凄い女嫌いだから、俺」



ぽつりと呟くように吐き捨てた。



それは、友季の周りの人からよく聞く話ではあったけれど。



「女の人の、何が嫌いなの?」



本人から具体的なことを聞いたことはなかった。



「何て言うか……怖いって言った方が一番しっくり来るのかな」



「私のことも、怖い?」



「舞は……舞だけは怖くないよ。ランドセルの天使だし」



「……」



ここでそのワードが出てくるとは予想していなかった舞は、その不意打ちのような台詞に黙ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る