第78話

この日は、何故か友季が舞に泊まりにきて欲しいと言って譲らないので、舞は急ではあるが、仕事終わりにそのまま友季の部屋に来ていた。



友季がしきりに“寒い”と繰り返すので、部屋に着いてすぐにお風呂を沸かした。



友季が入浴している間に、舞は土鍋の中に刻んだ野菜や肉を入れて、鍋を作る。



寒い日の仕事終わりは、鍋に限る。



本当は一番体の温まりそうなキムチ鍋にしようかと思ったのだが、友季は辛いものが苦手らしいので、それは諦めた。



帰る途中で寄ったスーパーで見つけた『ゆずしょうが鍋の素』というものが気になったので、それに決めた。



豚肉がおすすめと書かれていたので、今日のお鍋のメイン具材は豚肉だ。



一緒に食べるのが直人だったら、鍋のスープに市販のものを使うなんて、と怒られそうだが、友季はそういうのを一切気にしない。



「あ。すげー美味そうな匂い」



バスルームから出てきた友季が嬉しそうな顔をしながら、ダイニングテーブルの椅子に座っている舞を後ろから背もたれごと抱き締めた。



そのままの姿勢で、テーブルの上のカセットコンロで加熱されている土鍋の中を覗き込む。

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