第77話

それは、どういうことなのか。



舞が言葉を選ぼうと少し黙った時、



「……さむ」



友季がぶるっと身震いした。



「さっき後ろから水ぶっかけられた時、氷が一個、背中に入ったんだよな……」



「え」



今はもう12月。



想像しただけでも寒くて体が震える。



「早く着替えて下さい!」



更衣室の中に替えの制服があるはずなので、舞は慌てて友季の腕を引いて男子更衣室の前まで引っ張った。



「えー。舞が俺をあっためて」



何故だか『トモくんモード』を全開にしている友季を、



「それで風邪ひいたら一生許さない!」



舞が男子更衣室の中へと無理矢理押し込んで、乱暴に扉を閉めた。



「もう……」



赤く染まりそうになる頬を手で押さえる。



友季が舞を愛してくれているというのは、信じている。



けれど、彼の周りに寄ってくる女性たちは皆、同性の舞から見てもとても魅力的だと思える人が多すぎて。



友季が舞と付き合っていると知っていながら、それでも彼に近付こうとする彼女たちに、まだ子供っぽすぎる自分が勝てるはずもないと思ってしまう。



「……」



彼と釣り合うような大人の女性に、早くなりたいと願わずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る