第76話

「返してよ」



ムッとしてそう告げると、



「やだ。俺はあんな女子力アピールの強い薄手のハンカチよりも、実用的でいい匂いのする舞のハンカチがいい」



友季が真顔でそんなことを言い出した。



「……っ」



嫉妬心に気付かれていたと知って、舞は言葉に詰まる。



「皆が見てる前で暴言を吐いたのは、流石にびっくりしたけど」



「……大きな騒ぎにしてしまって、すみませんでした」



もし自分がもっと大人な対応を出来ていれば、友季に無料でデザートを提供させるような事態にはならなかっただろうと思うと、自分が許せなかった。



「いや。舞が俺のために怒ってくれて、すげー嬉しかったよ」



そう言ってふわりと優しく笑う友季の笑顔は、先程客たちに見せていたものとは全く違う種類のもので、舞をドキドキさせる。



「……シェフは、私を甘やかしすぎです」



舞が居たたまれなくなって、友季から顔を背けると、



「好きじゃなかったら、こんなことしない」



友季の声音が真剣なものに変わった。



「……さっきの女性は、シェフの元カノさんですか?」



友季と雅のやり取りを間近で見ていて感じたことを、そのまま友季へとぶつけた。



ちらりと友季の顔を見れば、真剣な眼差しをした友季の目と目が合う。



「……うん。女を見る目がなかったなって後悔してる」

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