第73話

カフェを利用している他の客が注目している中で、



「女の前でカッコつけてんじゃねーよ! 相変わらずダッセーなぁ!」



一体どっちがダサいのかは分からないが、オッサンは立ち上がると、そのまま店の出入口に向かう。



「ちょっ、おま……金は!?」



唖然とした状態からハッと我に返った男友達が慌てて伝票を探したが、まだ注文の品が揃っていないテーブルの上には、それはまだ存在しておらず。



「お代は結構なので、二度とうちの店には来ないで下さい」



まだ髪から水滴を垂らしたままの友季が、舞を腕の中から解放し、その男友達を睨みつけた。



そんな友季に、



「松野君」



椅子から立ち上がった雅がそっと近付く。



「これ、使って。風邪ひいちゃう」



差し出されたのは、一枚のハンカチ。



銀色の花柄の刺繍が施された、真っ白なハンカチに、



(……いい女ってのは、ハンカチまで美しいのか)



分厚めでふかふかのタオルハンカチを愛用している舞が、少しだけ眉根を寄せた。



「お気遣いありがとうございます。でも、結構です」



舞の気持ちに気付いているのかは分からないが、友季は一歩後ずさって雅から距離を置く。



「あら、つれない。でも、本当にいい男になったわね」



妖しく微笑む雅に、



「お連れ様が外でお待ちです」



友季はふいっと顔を背けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る