第71話

「……舞」



“鈴原”ではなく、“舞”という呼び名に、舞本人は勿論、友季の同級生たちも驚いて友季の顔を見た。



勤務中、誰かが見ている前では『シェフモード』を徹底しているはずの友季の顔は、とても険しく歪められていて。



「あとは俺がやるから、舞は厨房に戻ってて」



そう言って、舞からドリンク類の乗ったトレーを取り上げる。



そんな友季の様子を見て、



「もしかしてお前、その子と付き合ってんの?」



男3人組の中で一番偉そうにふんぞり返っている男が、舞を指差した。



「……」



友季は答えず、黙ってその男を睨みつける。



「ふーん、そう……ねぇ、君さぁ」



友季の表情を見た男は何かに納得したように頷くと、舞の手首をぐっと掴んだ。



「!」



舞は驚いて、椅子に座っている男を見下ろし、



「こんな腰抜けやめて、俺と付き合おうよ」



男は気にした様子も見せずに、へらっと笑った。



「……は? 自分の顔を鏡でしっかり見てから口説けよ。ダッサいオッサンの分際で」



突然カフェスペースに響き渡ったその汚い言葉に、



「……え?」



舞の手を掴んだままのオッサンは固まり、



「舞っ……また心の声漏れてる!」



友季はトレーを手にしたまま青ざめた。

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