第70話

「久しぶりね、松野君」



友季の心境に気付いているのかいないのか、雅は友季にふわりと笑いかけた。



「こんなにいい男になるって分かってたら、あの時振ったりしなかったのに」



――彼女の優しい笑顔の裏には、猛毒が仕込まれている。



それを、身をもって思い知らされたことのある友季は、



「あ……」



恐怖で動けなくなった。



――と、そこへ、



「お待たせ致しました」



カフェスタッフ――ではなく、何故か舞が彼らの注文の品を手に、友季の隣に立った。



「!?」



驚いて舞を見つめる友季に、



「……」



舞は眉尻の下がった困り顔で苦笑してみせた。



きっと険悪な空気を読み取ったカフェスタッフが、舞に偵察係と給仕の仕事を押し付けたのだろう。



「ブレンドコーヒーをご注文のお客様は……」



気まずいだろうに、それでも笑顔で仕事をこなす舞に、



「君、ここの新人?」



「さっき案内してくれた時から思ってたんだけど、初々しくてめちゃくちゃ可愛いね」



「連絡先教えてよ」



男3人が詰め寄り、



「……」



友季は抱いていた恐怖心すらも忘れて、無言のまま眉間に皺を寄せた。

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