第64話

「へ……?」



定休日以外にもらえる休日は、友季の店自体は開いているので、確かに舞は早起きして開店前から店の前の行列に並んではいるが。



休みの日にまで店に来ていることを知られたくないので、名前を伝える必要のある予約や取り置きはしてもらわず、他の客に紛れてコソコソと買い物をしていたのだが。



その際、マスクや伊達メガネなども装着して、軽く変装をしておもむいていたのだが。



それが舞であると、バレている……だと!?



「絶対に食べたいと思ってくれてるなら、出勤日に取り置きしとけばいいのに」



友季は舞の髪を愛おしそうに優しく撫でる。



「……そういう従業員の特権みたいなのは、他のトモくんファンの方々に申し訳ないから使いたくない」



舞は唇を尖らせてブスッとした表情をしてみせた。



「だからって、自分の勤務先の店の前に2時間も並ぶことないだろ」



「他のお客様はちゃんと順番を守って並んでるから。私も対等に並びたい」



変に律儀りちぎこだわりを見せる舞に、



「そういうところなんだよな……」



友季の胸はぎゅうっと締め付けられる。



「舞が、他の女と違うのは」



友季は腕の力を緩めて舞の目を覗き込み、その頬にそっと手を添えた。



それが何を意味するのか瞬時に理解した舞は、



「……」



恥ずかしそうに目を閉じる。



その瞬間、唇に優しく重ねられた熱に、



「……っ」



舞の体がぴくんっと小さく跳ねた。

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