第63話

友季の吐き出した言葉を、



「……」



舞は友季の腕の中で黙って聞いていた。



自分は何のために働いてるっけ……なんてことを、ぼんやりと考える。



「友季さんのためだけに頑張ってきたのに……!」



山内が、目の端からぽろぽろと涙を流したが、



「だからそれが間違ってるって言ってんだろ」



友季はうんざりした表情を見せるだけだった。



友季のその表情に、山内はぐっと唇を噛み締める。



「……アンタなんて、ただの私の後釜のクセに!」



山内の怒りの矛先が舞に向けられ、



「!」



舞はびくっと体を震わせた。



「せいぜい利用されて、私みたいに捨てられればいいのに!」



そんな捨て台詞を吐き、山内は裏口を飛び出した。



それを当然、友季は追いかけることもせず、



「舞……?」



心配そうに腕の中の舞の顔を覗き込む。



「俺は舞のこと、山内あいつの後釜だなんて思ってないから」



言いながら、少し緩んでしまった腕の力をもう一度込め直す。



「でも、私だってトモくんのこと好きだし、お菓子も――」



「お前、自分が休みの日は朝早くから店の前で並んでるだろ?」



舞の言葉を遮った友季の声は、心なしか嬉しそうに聞こえた。

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