第62話

「トモくん?」



既に『トモくんモード』を全開にしている友季に、舞は驚いて目をしばたいた。



「……私の知ってる友季さんじゃない」



すぐに友季の変化に気付いた山内も、驚きで目を見張ったまま友季を見つめる。



山内の知っている友季は、こんなに切ない声を出さない。



口調だっていつも偉そうな命令口調で、こんな風にお願いするような言い方なんてしない。



こんなに優しい友季は……山内は、今までに見たことがなかった。



友季がわざと周囲に冷たい態度を取っていることには気付いていたので、自分がその壁を壊してあげたいと思っていたのに。



「あ? お前に俺の何が分かるんだよ」



舞に向けられていた優しい目つきとは異なり、山内を見る目には嫌悪感が宿っている。



友季に言い寄ろうとする女たちに向けられるのと同じ、女嫌いの眼差し。



「……っ」



前にも一度だけ向けられたことのあるその眼差しに、山内は怯んだ。



「……私は友季さんのことも、友季さんのお菓子も大好きで、仕事終わりでも毎日買って帰って貢献してたのに」



「お前のやってたことは、全部俺のためだったって言いたいのか?」



友季の目が、ますます鋭くなる。



「山内には、辞めてもらって正解だったな」



友季は大きな溜息をついた。



「この店に来てくれる客のために皆で働いてるんだろ。それを、俺のためだなんて……嬉しくも何ともねぇよ」

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