第61話

――この状況はよろしくない。



そう思った舞は、友季の腕の中から抜け出そうと試みて、



「……っ」



頑張ってはみたが、友季の力強い腕からは全く逃げられず、諦めるしかなかった。



というか、抱き締め方はとても優しいのに、びくともしないこの力の強さは何なのか。



舞の中で、友季に対する疑問が一つ増えた。



「私はダメだったのに、どうしてその子はいいの?」



山内が、涙で震える声を振り絞って友季に問いかけた。



「俺がこの子を好きになっただけで、いいとか悪いとかそういうんじゃない」



「……私の方が先に友季さんを好きになったのに」



山内が舞を鋭く睨みつけるので、友季は舞を庇うようにして更にきつく抱き締める。



「お前……俺のことそんな風に呼んだことなんてなかったよな?」



友季が不快そうに眉根を寄せて、



「心の中ではずっとそう呼んでました」



山内はそんな友季を真っ直ぐに見つめた。



そんな2人の間に挟まれている舞は、



(私、この場に要らなくない!?)



この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。



友季の腕の中から抜け出したくて、もぞもぞと動いていると、



「……舞。抵抗しないで」



友季に切ない声で言われ、ぎゅうっと強く抱きすくめられる。

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