第60話

定休日明けのお店は、実はなかなかに忙しい。



しかも、明日は金曜日。



日曜日に向けて客の人数はどんどん増えてくるので、それに備えて翌日分の仕込みなどをしていると、必然的に残業になってしまう。



この日も1時間程の残業を終えて、舞はフラフラになりながら更衣室へと向かった。



コックコートを脱ごうとして、



(……あ)



今現在、自分は人前では脱げない体であることを思い出し、



(トモくんのバカー!)



キスマークを沢山付けた彼を、心の中で激しく呪う。



上田や販売スタッフの女の子たちが先に着替えて帰っていくのを見送ってから、舞はやっと私服へと着替えることが出来た。



更衣室を出ると、



「いつもより遅かったな」



そこにはやはり、意地悪そうな笑顔を浮かべた友季がいた。



「……」



無言でムッとする舞を、



「……可愛い」



友季は嬉しそうに抱き締める。



その瞬間、



――ガラッ



裏口の引き戸が、勢いよく開いた。



そこに立っていた人物を見て、友季は嫌そうに顔をしかめる。



「部外者は出て行ってくれるか? 山内」



舞を抱き締めた腕を緩めないまま言い放った友季を見て、



「なんでなの……?」



裏口に突っ立ったままの山内が、目を潤ませて友季と舞を睨みつけた。

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