第54話

「山内さんって……トモくんの何?」



勇気を出して訊ねてみると、



「今年の年明けくらいまでうちで働いてた、俺の部下だよ」



友季は悲しそうな瞳で答えた。



「舞と同じ専門卒で入社して――新卒の子はすぐ辞めてしまうのが当たり前だったうちの店にしては珍しく、3年近く働いてたな」



「……その人が辞めたから、私を雇ったの?」



周りの皆がどんどん内定をもらっていく中で、舞は年が明けても働きたい所が見つからず、焦っていたところに入ってきた、『パティスリー・トモ』の求人情報。



『パティスリー・トモ』は、ここ数年は求人の募集をしていなかったから今年はラッキーだったね、と専門学校の先生にも言われていた程だった。



「クリスマス時期にいきなり辞めたいって言われたんだけど、せめて繁忙期が終わるまではいてくれって頼んでさ。引き止めた理由がそれだっていうのも、気に食わなかったみたいで」



舞を抱き締める友季の腕に、ぐっと力がこもる。



「山内の気持ちに気付いてたのに、気付かないフリをしてた俺が悪かったんだ」



「……」



やはり、山内は友季のことが好きだったのだ。



けれど、友季のこの言い方は――



「トモくんは……? その山内さんのこと……」



「優秀な部下としか思ったことがない」



友季は即答した。



「でも、彼女が何か悩んでる素振りを見せた時は2人で食事に出かけて相談に乗ったりはしてて……今思うと、そんなことをしてた俺が悪いんだけど」

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