第53話

舞が慌てて体を起こすと、毛布がずり落ちてソファーからだらりと垂れ下がる。



友季がそれを拾い上げて舞の体にかけ直すと、自分も舞の隣に腰を下ろした。



「うなされながら、ずっと俺の名前呼んでたけど」



友季はそう言いながら、舞の体を毛布ごとぎゅっと抱き締める。



「……舞にあんな風に呼ばれたら、我慢出来なくなる」



吐き出すように呟いた友季の髪からは、洗いたてのシャンプーの香りがふわりと漂ってきて、それがとてつもなく色っぽく感じた。



「と、トモくん……?」



「怖い夢見てたのか?」



友季に真っ直ぐに見つめられ、



「うん……」



素直に頷くしかなかった。



友季が舞を抱き締めたまま、頭を優しく撫でる。



「どんな夢?」



「今日の昼間に来られたお客様が……」



「うん?」



「……何故か一緒に働いてて、厨房でトモくんとイチャイチャしてる夢」



「……」



舞の頭を撫でる友季の手が止まった。



「……その客って、山内?」



スッと名前が出てくるところを見ると、やはり友季と山内はそういう関係だったのだろうかと思ってしまう。

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