第52話

舞は、夢を見ていた。



そこは職場の厨房で、舞は他のメンバーと共にひたすらお菓子を作っていて。



「友季さん」



そのメンバーの中に、あの山内という女性も混じっていた。



甘えたようにり寄る彼女を、



「どうした? 山内」



友季がとても愛おしそうに抱き寄せるのを、舞は目の前で見てしまった。



背の高い友季と、女性の中では比較的長身の山内は、はたから見ればとてもお似合いのカップルで。



「シェフ……」



皆が見ている手前、“トモくん”と呼ぶことが出来ずにそう呼んだ舞に、



「あ? 何だ。いたのか、鈴原」



友季は鬱陶うっとうしそうな視線を投げかけて、その腕の中では山内が勝ち誇ったように口角を上げて舞を見下ろしていた。



そんな、胸が張り裂けそうになる夢を見て、



「トモくん……!」



友季の名前を呼びながら目を覚ますと、



「うん? 俺ならここにいるぞ」



心配そうな顔をした友季に、顔を覗き込まれていた。



「まだ辛い?」



そう優しく訊ねる友季は、毛布の上から舞のお腹を優しくさすってくれていて。



自分は毛布にくるまったままソファーで横になっていて、友季はそのソファーとテーブルの間の床に膝をついてしゃがみ込んでいた。

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