第43話

舞が店の焼き菓子コーナーで焼き菓子の補充をしていると、



「あなた、ここの新人さん?」



若い女性客に声をかけられた。



入社したての頃、常連客から“大変だろうけど頑張ってね”とよく声をかけられることがあった舞は、いつものそれかと思い笑顔で頷く。



「あ、はい。今年の春からこちらで働かせて頂いて――」



「どうやって松野さんに取り入ったの?」



舞の言葉を上から遮ったその女性客は、舞を鋭く睨みつけてきた。



「え……?」



舞は驚いて、その女性客の顔を見た。



舞より少し年上の20代半ば頃に見える、可愛いというよりは美人と言った方がしっくりくる女性。



すらりと背が高く、睨みながら見下ろされると迫力が倍増して見える。



「噂で聞いたんだけど。松野さんが新人の女の子と付き合ってるって。ねぇ、どうやったの!?」



女性客に両肩を強く掴まれ、その反動で手にしていたチョコチップクッキーの袋が一つ、床に落ちた。



「あっ……」



拾いたいが、未だに肩を強く掴まれていて身動きが取れずに舞は戸惑う。



彼女が何故怒っているのか、何故そんなに悲しそうな目をしているのか。



なんとなくの勘だが、舞には分かったような気がして、でも返すべき言葉が見つからず――



「お客様? どうかなさいま――」



舞が客と揉めているのかと思った友季が、慌てて厨房から出てきて、



「――山内やまうち?」



女性客の顔を見て、目を見開いたままその場に固まった。

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