第38話

舞は丁度、豆腐の味噌汁の味見をしようとしていたところで。



後ろを振り返ってテーブルの上を見ると、卵焼きとウインナーに、ほうれん草のお浸しが用意されていた。



「舞が作ってくれたの?」



「簡単なものしか出来なかったけど……」



「ありがとう。すげー嬉しい」



友季は舞を抱き締めたまま、彼女の左肩にそっと顎を載せた。



実は、舞の手料理を今まで一度も食べたことがなかった友季。



舞が泊まりに来た時はいつも友季が作るか、近くの店に買いに行くかのどちらかだったから。



「体は平気?」



「うん。まだちょっとだけ痛いけど、大丈夫」



舞の返事を聞いて、彼女を抱き締めている友季の腕に力が入る。



「ごめん……今度からは、絶対もっと優しくするから」



「……うん」



友季の“今度”という言葉に、舞の頬が赤く染まる。



その今度って、いつになるのだろう。



まだ少し怖いけれど、友季にだったら全てを委ねられるって強く思ったから。



「トモくん。もうごはん出来るから離して」



「ん」



友季は小さく頷きながら、舞を更にぎゅうっと強く抱き締めた。



舞はお玉とお椀を持ったまま身動きが取れず、



「トーモーくーん?」



困った顔で友季を呼びながら苦笑した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る