第37話

「ん……あれ……舞!?」



舞をしっかりと抱き締めて眠っていたはずの友季は、自分が抱き締めているのが実は毛布だったと気付いて、慌てて飛び起きた。



もしかして、昨夜の幸せな時間は友季の願望が生み出した夢だったのではないか。



そう思ったが、跳ねけた布団の隙間から見えるシーツに、舞の破瓜はかの印が少しだけ付いているのを発見して――



やはり、昨夜のことは夢ではなかったのだと確信した。



と同時に、舞に酷く辛い思いをさせたのではないかと思い、



「どこに行ったんだ……?」



彼女が眠っていたはずの場所にそっと触れると、もう随分と前から抜け出していたのか、布団もシーツもすっかり冷たくなっていて。



もしかして、昨夜のことが原因で友季に愛想を尽かしたのではないか。



そう考えた友季は、慌ててベッドから降りて寝室を飛び出した。



人の気配のするリビングの方へ向かうと、その部屋の奥にあるキッチンに、舞の背中が見えた。



友季のエプロンを着けて、鼻歌交じりに料理をしている舞を、



「舞……!」



後ろから思い切り抱き締めた。



「きゃっ! びっくりしたぁ」



舞は驚いて首だけで友季を振り返ったが、



「良かった……1人で帰ったのかと思った」



友季は構わずに舞の体を抱き締め続ける。



「もう。朝ごはん作ってるのに、危ないでしょ」



「ごめん……あ、いい匂い」



友季はここで初めて、味噌汁のいい香りに気が付いた。

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