第93話

友季が舞の喜ぶ顔を想像しながらミルクプリン作りにいそしんでいた頃、舞はというと――



「舞……お粥作ったけど、食べられそう?」



買い物から帰ってきた直人が舞の傍から離れようとはせず、



「……いい。放っておいて」



舞は布団を頭の先まで引っ張って被り、直人を拒絶し続けていた。



「アイスも買ってきたけど、それなら食えそう?」



「……要らない」



「何か食べないと、治るもんも治らないだろ」



直人はしつこくそんなことを言ってくるが、そもそも舞が体調を崩した原因は直人にもある。



油断すれば、また何かされるんじゃないかと怖くて気が抜けない生活を送っていたから。



部屋の鍵をかけていても、安眠出来ない毎日を過ごしていたから。



「舞……」



だから、そんなに悲しそうな声で呼ばないで欲しい。



「……舞は俺のこと、男として見てくれないのか?」



突然のそんな質問に、



「……直人が、女ならとにかく誰でもいいと思ってる男だっていうのは認識してるよ」



舞は冷たく答えた。



「舞は大きな誤解をしてる」



直人が悲しそうに呟いた。



「舞が女だからキスしたんじゃない。舞のことが好きだから、したんだよ」

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