第92話

合計で8台のホールケーキを仕上げた友季の隣には、



「この職場には鬼がいる……」



苺のヘタ取りにげんなりしている木村が。



「鈴原はそんな文句言ったことないぞ」



「いっつもああやって鈴原さんのことイジメてたんすね……」



そりゃあ睨まれるわ、と木村は思った。



「イジメてねぇよ、人聞きの悪い」



友季はまたムッとして木村を睨んだ。



「とにかく俺は、もう試作に取りかかるからな」



そう言ってさっさと隅の作業台に戻った友季と、



「……なんでシェフが使った後の台って、いっつも綺麗なんだろ?」



殆ど汚れていない台の上を交互に見比べた木村は、1人首を傾げた。



そして、計量の続きを始めようとした友季であったが、



「……」



ふと動きを止めた。



ミルクプリンのフレーバーをどうしようかと悩んでいるのだ。



王道シンプルなものでもいいが、どうせならひと工夫加えたい。



そもそも、舞はどんなフレーバーの菓子が好きなのだろうかと考えて――



昼休憩の時に必ずと言っていい程、ミルクティーを飲んでいることを思い出した。



食事がサンドイッチだろうがおにぎりだろうが、とにかく何にでもミルクティーを合わせていた舞。



おにぎりにミルクティーなんて、と初めて見た時は思ったが、



「ロイヤルミルクティープリンにするか」



それしかないと思った。

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