第94話

絶対に聞きたくなかったその言葉に、



「……なんで、今そんなこと言うの?」



舞の声は涙声になった。



ますます、もう直人とは一緒に暮らしていけないと思った。



「誤解されて険悪なままより、俺の正直な気持ち知ってもらった方がいいかと思って」



覚悟を決めた直人には、もう躊躇ためらいがない。



「もし、単に舞が女だからっていう理由でそういうことをしたんだったら……舞の気持ちなんか無視して、もっと無理矢理色々してるよ」



「……」



想像しただけでも怖くて、布団の中の舞の体が震えた。



「でも、俺は舞のことが本気で好きだから……舞の嫌がることはしたくない」



「……無理矢理キスしたくせに」



「あれは……ごめん。あんなに嫌がられるとは思ってなかったから」



舞に泣かれた時のことを思い出して、辛くなった直人は俯いた。



「もう絶対に、舞の嫌がることはしないって約束するから……だから、頼むから何か少しだけでも食べて欲しい」



「とにかく1人にして欲しいって私の気持ちは尊重してくれないの?」



舞にそう言われては、



「分かった……ごめん」



部屋を出ていくしかない。



「何か食べたいものが出てきたら、言って。何でも作るし、買いにも行くから」



直人はそう声をかけると、静かに部屋を出ていった。



心身共に弱っている舞の食べたいものなんて――1つしかない。

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