第90話

舞との通話を終えた後、厨房に戻った友季は――



「……松野シェフ。帰ってくるなり早々、何してるんすか?」



他の社員の邪魔にならないよう、隅の作業台でミルクプリンに使用する原材料の計量をしていた。



元々、今日の友季は新商品の開発をする予定だったので、通常業務に携わらなくても大丈夫なスケジュールを組んである。



だが、それは友季だけのスケジュールであって、店全体としてのスケジュールに、“舞の早退”は入っていなかった。



「鈴原さん抜けてめちゃくちゃ辛いんで、松野シェフもこっち手伝って下さいよ」



グチグチとぼやく木村の前には、今日受け渡し予定のホールケーキの予約伝票がずらりと並んでいて、



「シェフー」



泣きそうな目で友季を見つめてくる。



「苺が足りないんで、ヘタ取りくらいして下さいよー」



舞にヘタ取りしてもらう予定だった苺が、まだ箱に入ったまま手付かずで積まれていた。



「お前……鈴原はヘタ取りマシーンじゃないんだからな」



最近になってやっと、舞がいないと現場がきつくなると思える程、舞は仕事が出来るようになっていた。



そんな舞をヘタ取りマシーンみたいに言われるのは、友季からするといい気がしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る