第89話

『直人は今、買い物に出掛けてるみたいで……だから、今のうちにシェフにお礼とお詫びをお伝えしたくて』



「あぁ……いいよ、別に」



律儀な子だなと思うと同時に、そんな舞を心から愛しいと思う。



『あの、でも……直人のヤツ、シェフに何か失礼なこと言いませんでしたか?』



そんな舞の一言に、友季は焦った。



「俺らの話……聞こえてた?」



もし聞かれていたら、友季が舞を好きでいることがバレてしまっている。



『いえ……頭がぼーっとしてたので、内容までは……』



舞のその言葉に、友季はまた安堵の息をついた。



『でも、直人が声を荒らげてたのは分かったので……何か失礼がなかったかなと』



「俺の心配はいいから、今はゆっくり休んどけよ」



話せるくらいに回復したとはいえ、舞の声はまだまだ辛そうだ。



「何か欲しいものがあったら、後で届けに行くけど」



友季の言葉に、



『……』



電話の向こうの舞が、何故か黙った。



「鈴原?」



『……シェフのミルクプリンが食べてみたいって言ったら……ダメですか?』



「え……」



突然の舞の可愛いおねだりに、友季の胸がキュンと音を立てた気がした。



舞にそんなことを言われたら――



「いいぞ。今から作るから、ちょっと待ってろ」



作らないという選択肢は、友季の中には存在しなかった。

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