第84話

この状況を、ラッキーだなんて思ってはいけない。



舞は今、とても苦しんでいるのだから。



そう思うのに、



「……っ」



一度顔に灯った熱は、なかなか簡単には引いてくれなかった。



ルームメイトとやらに真っ赤な顔を見られるのを覚悟して、友季は舞の部屋を目指して階段を登る。



部屋の前に辿り着くと、背中からずり落ちそうになっている舞を気遣いながらインターホンを鳴らす。



どうやらルームメイトは部屋にいてくれたらしく、



「はい?」



インターホン越しではなく、扉が開いて本人が直接出向いてくれた。



が、それは勿論直人で、



「……え?」



舞のルームメイトが女の子だと勝手に思い込んでいた友季は、驚きのあまり、舞を背負ったまましばらく固まってしまった。



「えっ? 舞!? どうしたの!?」



友季の背中の舞の存在に気が付いた直人の顔が、急に焦りの表情へと変わった。



そんな直人を見て、友季はハッと我に返る。



「鈴原さん、勤務中に熱を出して倒れられて……」



事情を簡単に説明すると、



「……アンタ、誰?」



直人に鋭く睨みつけられた。



直人のこの表情から、



(鈴原の彼氏……だよな?)



友季は直人のことをそう推理した。

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