第80話

カスタードクリームが冷えるのを待つ間、



「皆、今何か食いたいお菓子ある?」



友季が不意に、厨房にいる社員全員に聞こえるような大声を出した。



「あれは、いきなり何が始まるんですか?」



それに驚いた舞は、すぐ近くで苺のホールケーキのナッペをしていた上田に、こっそりと訊ねた。



「新商品のネタ探しでしょ。行き詰まると、たまにああやって皆に聞いてくるの」



上田は呆れたように答えた後、



「シェフー! 私は焼肉が食べたいでーす!」



友季に向かって元気に挙手した。



「あ、俺はフライドチキン!」



山田も挙手し、



「カレーうどん」



高橋もぼそりと答え、



「俺はラーメンっすかね」



木村も笑顔で挙手した。



毎日を甘い匂いに囲まれて過ごしているパティシエの頭の中は、常に甘くない食べ物の妄想でいっぱいだったりする(パティシエあるある)。



「お前ら……俺は菓子の話をしてるんだよ!」



勿論、イラッとした友季は怒鳴った。



唯一何も答えなかった舞の方を向き、



「鈴原は?」



舞へと話を振る。



「俺に何か作って欲しいお菓子ない?」



優しく訊ねた友季の表情は、この店にあるどのお菓子よりも甘そうに見えた。

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