第78話

2人の騒ぐ声を聞いた舞は、ちらりと視線だけで友季の方を見たが、



「……」



特に興味もなさげに、また自分の手元に視線を戻した。



舞の興味のなさそうな視線に気が付いた友季は、



「……」



元気をなくしてしゅんと項垂れた。



「松野シェフ……大丈夫っすか?」



友季の気持ちに気付いている木村は、ますます心配そうな顔をする。



「ストーカー被害も、相変わらずなんすよね?」



「……」



友季は何も答えなかったが、木村はその沈黙を肯定の返事と捉えた。



美和が一向に友季の部屋の合鍵を返してくれないので、仕方なく鍵ごとごっそりと新しいものに換えたのだが。



部屋の前で待ち伏せをされることが多くなったのだ。



お陰で家に帰れずに、ネットカフェに避難する日も増えてきた。



「一体、どんな別れ話の切り出し方をしたらそうなるんすか?」



木村は呆れたように溜息をついたが、



「いや、そもそも付き合ってなかったし」



友季はうんざりした表情で首を横に振った。



今まで否定も肯定も一切しなかった友季の、初めての否定の台詞。



木村は思わず友季の顔を凝視した。

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