ミルクプリン

第77話

直人と喧嘩をしたからと言って、簡単にルームシェアの解消なんて出来るわけもなく……



そもそも親同士が勝手に決めたことなので、舞たちに決定権はない。



だからと言って、一緒に暮らしたくない理由を親たちに言うのは――



事情が事情なだけに、結局は何も言えなかった。



舞の歓迎会のあった日から1ヶ月以上が経過したが、未だに気まずいまま一緒に暮らしている。



朝食だけは2人で一緒に食べて、夜は各々で取るというスタイルになってしまったが。



舞が自室にいる間は、以前なら扉の鍵なんてかけなかったのに、あの事件以来、必ずかけるようにしている。



完全に、直人への信用を失っていた。



そんな家庭の事情に悩みながら、



「はぁー」



完全にクレープ生地の担当になった舞は、もうボウルに用意した氷で手を冷やすこともなく、慣れた手つきでクレープをどんどん焼いていた。



そんな舞の様子を、心配そうにちらちらと窺っているのは、



「……」



大きな銅鍋でカスタードクリームを炊いている友季。



あまりにもよそ見の回数が多いので、



「あっ、松野シェフ! 鍋から零れてるっす!」



ヘラを動かす友季の手元が狂って、鍋の縁からクリームが大きくはみ出す瞬間を見た木村が、慌てて声を上げた。



「あっ! やべ!」



友季も慌てて視線を鍋に戻した。

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