第74話

「舞さえ良ければ、俺は喜んで舞と結婚するけど」



「……」



舞は無言のまま後ずさろうとして、



「痛っ……」



両手首をしっかりと掴まれているので、直人と距離を置くことが出来なかった。



「舞は? 俺とじゃ、嫌?」



直人に真剣な眼差しで見つめられて――



「……私は、直人と恋人ごっこをするためにルームシェアをしてるんじゃない」



舞はまだ目を潤ませたまま、直人を鋭く睨みつけた。



「……」



直人だって、別に“恋人ごっこ”をしたいわけではない。



舞と本当の恋人同士になりたいだけだ。



舞の言葉にショックを受けた直人の両手から、自然と力が抜ける。



その隙をついて、



「!」



舞は直人の手を振り払い、すぐに自分の部屋へと逃げ込んだ。



扉を閉めて、すぐに鍵もかける。



「舞!」



扉の外側で、直人の焦ったような声が聞こえたが、



「放っといて! もう二度と……私に触らないで!」



舞はベッドに潜り込むと、周囲の音を遮断するかのように毛布を頭から被った。



自分の体を抱き締めるようにして、体を小さく丸める。



寒くもないのに、全身が小刻みに震えていた。

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