第73話

直人の胸を両手で押し返そうとするが、両の手首をしっかりと掴まれていて抵抗出来ない。



しばらくしてから、直人が漸く唇を離し――



「俺が舞にキスしたの、これが初めてじゃないから」



そんなカミングアウトをされて、



「!?」



舞は、元から大きな目を更に大きく見開いた。



「な、なんで……」



みるみるうちに涙で潤んでくる舞の目をじっと見ていられなくて、直人はすっと目を逸らす。



「……男なんて皆、女の子に隙を見せられたら平気でこういうことするよ」



そんなことは直人の本心ではなかったが、今はまだどうしても“好きだ”とは言えなかった。



「……で、でも……従姉弟同士でこんなの……おかしいよ」



舞の両目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。



「……俺とのキス、そんなに泣く程嫌なの?」



もしかすると、これで男として意識してくれるかもしれないと思っていた直人は、舞の反応に深く傷付いた。



「だって私たち、従姉弟なんだよ……?」



“従姉弟”という単語を繰り返す舞に、



「……ちっ」



直人は思わず舌打ちした。



「いとこ同士でも、結婚は出来るんだよ」



「えっ……」



勿論、そんなことは舞でも知っている。



けれど、それを実際にしたいと考えている人が身近にいるとは――ましてや、そこに自分が関係するとは、全く夢にも思っていなかったから。

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