第65話

舞が友季に提出した通勤経路申請書の情報を頼りに、舞の暮らすアパートの前まで行きつくことが出来た。



シートベルトを外し、後部座席で眠っている舞を振り返った。



「鈴原……起きられるか?」



「……う……」



舞は苦しそうに呻いてから、ゆっくりと瞼を開けて……



窓から差し込む街灯の明かりだけが頼りの暗い車内で、友季の目と舞の目が合った。



直後、



「……おにい、ちゃん……?」



舞の目が、大きく見開かれた。



「えっ……」



その瞬間、友季の心臓がドキッと大きく跳ねる。



「あ……鈴原……」



友季が何か言おうと、舞の名前を呼んで、



「……あれ?」



その友季の呼び声で、舞はハッと我に返った。



慌てて飛び起き、



「あっ……すみません、私……もしかしてお店で寝てました!?」



やっちゃったー! と頭を抱えた。



「あの、鈴原……」



友季が何か言いかけているが、上司に迷惑をかけてしまって気まずい舞は、一刻も早く友季から離れたいと願う。



「送って頂いて、すみませんでした! では、おやすみなさ――」



「鈴原!」



車のドアノブに手をかけようとしていた舞を、友季は慌てて強めに呼んで引き止めた。

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