第63話

「これ以上は、その子に深入りしない方が……」



上田の言葉に、



「何? 上田さんまで俺のこと信じてくれてないの?」



友季は寂しそうに笑った。



「いいえ。そうではなく……」



上田は一旦言葉を区切ると、友季の目を真っ直ぐに見上げた。



日付が変わってしまいそうな程に夜も更けて辺りは真っ暗になっているが、駐車場の外灯だけが、2人の顔をうっすらと照らす。



友季の悲しそうな瞳が見えて、



「シェフの傷付いた顔を見ているのが、耐えられないだけです」



上田ははっきりと告げた。



「……」



「今日、鈴原さんが話していた男子高校生って、シェフのことですよね?」



「……うん。多分、そう」



友季は、力なく頷く。



「でも、鈴原さんがそのことに全く気付いてなくて……傷付いたでしょう?」



「……」



「もし気付いてもらえたとしても……その後、どうするんですか?」



上田の質問に、



「!」



その先を全く考えていなかった友季は、はっとした。



「いきなり“好きだ”なんて伝えたところで、この子のことだから、ゴミを見るような目で見られて終わりですよ」



上田の予想もしていなかった台詞に、



「……えっ!? 好きだなんて、俺は一言も――」



友季は慌てて首を横に振った。



「違うんですか?」



上田は鋭く質問を重ね、



「……違わないです」



素直に認めざるを得なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る