第61話

「その時のお兄ちゃんと、約束したんれす〜。パティシエになって、そのお兄ちゃんのライバルになるって」



舌っ足らずな喋り方をする舞の話に、



「……!」



驚きで目を見開いたのは、友季だけではなかった。



友季から同じ話を聞かされたことがあった上田と木村は、



「え? それって……」



「まさか……?」



一気に酔いが覚めて、互いの顔を見合わせていた。



何も知らない山田と高橋は、



「で、そのお兄ちゃんって今どこで何してんの?」



「今も連絡取り合ったりしてるの?」



それが自分たちの雇い主であることに気付いてはおらず、そんな呑気な質問を繰り出す。



友季は、自分のことに気付いてくれているのかと舞の顔を凝視して答えを待ったが、



「それがぁ、名前も知らなくて〜……全然会えてないんれすぅ」



舞はそんなことを言いながら、ついにはテーブルに突っ伏して、



「すー……」



真っ赤な顔をしたまま、眠ってしまった。



「あーあ、寝ちゃった……彼氏いないんなら、俺が連れて帰っちゃおうかなぁ」



そんなことを本気のトーンで呟いた山田を、



「俺が車で送り届けるから、山田さんは鈴原に触らないで」



友季は鋭く睨みつけた。



「なっ……自分だけ美味しいとこ取りする気かよ!」



酒に酔っている山田は、目の前の友季が上司だということを完全に忘れてしまっている。

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