第57話

友季本人の口からは、恋人の有無は一切聞かされたことはない。



だが、年上の妖艶な美女と2人でマンションの一室に暮らしているという噂がある。



この中のメンバーで唯一、山田だけが、友季がその美女と2人で買い物をしているところに出くわしたことがあった。



その時、友季は山田から目を逸らして一言も話すことはなかったが、友季の腕に絡みつくようにして抱きついていた女が、



「いつも友季がお世話になってます」



と山田に挨拶してきたのだ。



彼女面を通り越して、奥さん面をしていたように思う。



その話を山田から聞いていた高橋は、



「……とにかく、関わらない方が良さそうだな」



面倒事は御免だとばかりに、また黙々と仕事をこなし始めた。



舞の入社初日から舞のことを密かに狙っている山田は、



「……」



今は閉まっている事務室の扉を――正確には、その扉の向こう側にいるであろう友季を、鋭く睨みつけた。



雇い主だか何だか知らないが、彼女持ちのくせに、こちらのことを邪魔立てされる筋合いはないはずだ。



絶対に友季よりも先に、舞にデートの申し込みしようと決意した時、



――ピーピーピー……



オーブンのタイマーのアラームが鳴ってしまい、



「あ……!」



山田は慌ててオーブンを振り返った。

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